日本ミトコンドリア学会 本文へジャンプ
  
ドクター相談室
ドクター相談室 > 過去のドクター相談室 > 再生医療について

投稿日時: 2007-6-1 3:31
投稿者:ゲスト

再生医療について

娘が一年程前にミトコンドリア脳筋症の疑いと診断されました。
疑いとなっているのは、筋生検はまだしていませんが、脳のMRIでは異常ありで、遺伝子検査では陰性だったからです。
現在の症状は、難聴と小脳失調です。
先日、再生医療の進歩によって、神経疾患等の難病も治療できるようになるというニュースを見ました。
単純な素人考えですが、ミトコンドリア病も異常のある細胞を正常な細胞に置き換えたりして将来的にはなんらかの治療ができると希望を持っていいのでしょうか?

投稿日時:2007-6-1 18:49
投稿者:gyuichi

Re:再生医療について

国立精神・神経センターの後藤雄一です。

ミトコンドリア脳筋症の治療に再生医療はとても重要な意味を持つと思います。というのは、分裂して新しい細胞を作り出せる(再生できる)血液細胞、肝細胞、筋細胞などは、新しく増えてくる細胞のミトコンドリアDNAを操作することによって症状を軽減できたり、治すことが可能になるかもしれません。実際に、貧血や筋力は自然に良くなるということが患者さんに認めることがあります。しかし、極度に分化した(特殊な機能をもつということです)細胞は通常分裂することができず、再生できないと考えられてきました。神経細胞や心臓の細胞などがそういう細胞で、治療が難しいことになります。しかし、最近の再生医療の進歩は、通常は再生しにくい細胞に対しても、再生させることができるようにするという大きな希望を与えています。ミトコンドリアDNAの変化を修正するという治療法は、そういう再生医療と結びつくことで新たな治療法として開発される可能性があります。

投稿日時:2007-6-2 2:18
投稿者:ゲスト

Re: 再生医療について

わかりやすいご説明有難うございました。
うちの娘の場合は、遺伝子検査は全て陰性でした。
しかし今でも解明されていない部分があるので、陰性=否定ではないと主治医から説明を受けました。
うちの様に、どの遺伝子に異常があるのかわからない場合、それを操作するという治療は再生医療が確立されてもやはりできないのでしょうか?
又、そういった治療法は10年後ぐらいにはできるようになるとかの目安みたいなものはあるのでしょうか?
投稿日時:2007-6-2 6:28
投稿者:gyuichi

Re:再生医療について

国立精神・神経センターの後藤雄一です。

お子さんの遺伝子検査はすべて陰性というのは、いまできる検査をした範囲でという意味です。原因である遺伝子の変化まではわからなくても、細胞のレベルでミトコンドリアの機能異常が確認できていれば、ミトコンドリア病と診断されることになります。治療法には、大きく分けて原因治療と対症療法があります。できれば原因にまでせまった根本的な治療法を行うことが理想です。その意味で、再生医療は原因治療になる可能性があるという点をご説明しました。一方で、遺伝子レベルの原因がわからなくても、細胞レベルの治療として再生医療を行うことができるようになるかもしれません。ただ、失われた細胞や機能の低下した細胞をどのように復活させるかは、機能が複雑であればあるほどむずかしいことになります。パーキンソン病や脊髄損傷などのように比較的限定された部位だけに病変があれば再生医療の応用がしやすいですが、ミトコンドリア病のようにどの細胞でも機能低下を招く可能性がある場合は再生医療の道具立てができても、それをどのように使うかという点でさらなる工夫が必要になるでしょう。どちらにしても、10年後には新しい治療法として再生医療が臨床の現場で使われ始めているのではないかと思います。もちろん新しい薬の開発も進むと思います。
投稿日時:2007-6-3 2:13
投稿者:ゲスト

Re: 再生医療について

お返事有難うございました。
もう少し自分の中で納得したい部分があるので再度質問をさせていただきます。
娘は認知症や筋力低下等の症状も少しずつですが出てきています。
たとえば今後再生医療での認知症の治療が確立されたとします。
それを原因がミトコンドリアの機能異常が原因でも認知症の症状だけは治せるようになると考えてもいいのでしょうか?
ミトコンドリアの操作はできなくてもそれぞれの部位での再生医療が確立できれば、再生医療での対症療法はできると考えてもいいのでしょうか?
この病気は本人にとっても親にとってもあまりにもむごすぎます。
今後の治療法に少しでも希望があるのなら、それを100%理解し、励みにしたく思いくどい質問になってしまいました。
宜しくお願いします。

投稿日時:2007-6-6 16:22
投稿者:gyuichi

Re:再生医療について

国立精神・神経センターの後藤雄一です。

私の説明がわかりにくかったかもしれません。再生医療という方法で認知症が治療できる可能性はないとはいえませんが、厳密には認知症そのものがどのようなメカニズムで起こっているかが解明できないと再生医療を応用することができません。どこの神経細胞をどのよう再生させればよいのかを知ること自体が実は難しい問題です。認知症では脳のどの領域が障害されているかについて全貌がわかっているわけではありません。脳の中の前頭葉とよばれる思考などに関わる領域、脳の中心部にある海馬などの記憶に関わるといわれている領域、その他のいくつもの領域、それら領域を結ぶネットワークが障害されているかもしれません。脳の領域ごとに再生医療を応用する技術が開発できればよいですが、それ自体ももたいへんな時間がかかりそうな気がしますし、さらにどの領域を選んで治療するかを考えなくてはなりません。ただし、地道な研究努力とともに、一つの技術の進歩がいままで考えられなかったような新技術の開発に繋がることがあります。上にのべたような現状の問題点を一挙に解決できるような新技術が開発される可能性もあります。ですから、希望をもって娘様と過ごしていただきたくお願いいたします。

投稿日時:2007-6-7 9:53
投稿者:ゲスト

Re: 再生医療について

丁寧なご説明有難うございました。
認知症治療については大変よくわかりました。
私の書き方が悪かったのかもしれませんが、それぞれの部位に対する再生医療というのは、たとえば、聴覚、脳、筋力等という意味でした。
耳だけでも聴こえるようになったら、筋力だけでも回復したら、認知症だけでも治ればこの病気もここまでむごくはなくなるかもと思ったのです。
そういった意味でミトコンドリアの異常が原因でも再生医療での対症療法はできるのかという疑問です。
パーキンソンは部位が限定されてる上原因もミトコンドリアの異常ではないからという事で再生医療に一番近いところにあるのでしょうか?
突発性難聴で聴こえなくなった方とミトコンドリア病によって聴こえなくなった者とは同じ再生医療を受けれると考えていいのでしょうか?
何度も質問してしまいすいません。宜しくお願い致します。

投稿日時:2007-6-7 20:56
投稿者:gyuichi

Re:再生医療について

国立精神・神経センターの後藤雄一です。

原因がなんであれ、細胞の機能が低下したり、細胞そのものがなくなったりした場合に新しい細胞を正しく十分補充できれば治療することができると思います。ですから難聴にしても、正しく十分に細胞を補充できる再生医療技術であれば、突発性難聴でもミトコンドリア病でも同じものを使えるかもしれません。しかし、正しく十分にという点で、病気の原因ごとに多少異なる条件が出てくる可能性があり、再生医療技術の質が問われる可能性があります。
投稿日時:2007-6-8 1:57
投稿者:ゲスト

Re: 再生医療について

毎回丁寧なお返事有難うございました。
私なりに100%理解できたように思います。
これからも、この相談室で教えていただいた事をふまえて、再生医療のニュースに耳をかたむけていきたいと思います。
先生にわかりやすく説明していただいたおかげで、少しは希望を持つ事ができました。
本当に有難うございました。