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投稿日時:2007-2-21 23:10
投稿者:ゲスト

四歳児、リー脳症の娘の症状について

いつもお世話になっております、以前も投稿させて頂き、疑問な事を色々と丁寧に教えて下さり、大変参考になりました。ありがとうございました。

娘はリー脳症だと昨年11月確定診断されました。
MRIでは中脳被蓋〜背側部を中心にT1T2-high signal有りとの事。
現在、ビタミンB1(アリナミンF)、イノキノン、ビタミンEを内服してます。
眼振(二歳位から発症、軽度との事)、屈曲性弱視(右0・3、左0・15、両眼0・3)、視神経障害(視神経蒼白)など眼についてはそのような症状があります。昨年9月から弱視治療の為眼鏡をかけています。
それから歩行不安定、手指振戦等の症状もあります。
眼科には月に一度診察に行っています。少しでも娘の視力が良くなって欲しい。他の眼の症状も改善してあげたいと日々願っており、眼科の先生にも毎回この症状が良くなる治療法が無いかを確認しているのですが、リー脳症が大元の原因なのでなかなか無い・・・といつも決まった答えです。この眼の症状について、先生方の今までのご経験等で、こんな薬や治療をしてみて眼の症状が良くなった!視神経に良かった!事などご存知でしたら教えていただけますでしょうか。今、娘がしている眼の治療は弱視治療の為の眼鏡のみです。薬の他にもこういう症状に良いサプリメント等でもなんでも良いのでご存知でしたら詳しく教えて頂けませんでしょうか。
あと、手指振戦で気になる事がありお尋ねしたいのですが、以前に比べ少し手指の震えがきつくなった気がするのと、日によって手指の震えの度合いが違ったり、時間帯等によっても違うと感じる時があるのですが、それはどういう事なのでしょうか。熱も無く元気そうであればあまり気にしなくても良いのでしょうか。それとも震えがきつくなっているように思うのであれば気にかけた方が良い点などありましたら教えて下さい。長々と申し訳ございません。お返事どうぞよろしくお願いいたします。
 

投稿日時:2007-2-25 2:09
投稿者:yasukoga

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
4歳のリー脳症のお嬢様の症状に関する質問ですね。現在、
ビタミンB1(アリナミンF)、イノキノン、ビタミンEを内服中とのことですね。抗酸化剤(重曹、ウラリットなど)、カルニチン、ビタミンCなどが次の候補薬になると思います。ジクロロ酢酸ナトリウムは、末梢神経障害の副作用が報告されて以来、使用しにくい状況です。乳酸を低下させ、嫌気性解糖系のエネルギー合成を温存する意味で、ジクロロ酢酸ナトリウムに替わって、ピルビン酸ナトリウムを使用するのも良い方法であり、私が使用した患者様では非常に良い印象です。しかし、上記何れの治療も、正式に効能効果があると認められた治療法ではありません。サプリメントなどは、さらに効果判定の基準があいまいですので、効くという確固たる証拠を持って医師の立場でおすすめできるものは一つもありません。弱視に対して、効果があるものもありません。手指振戦が、ひどくなっているようであれば、小脳失調なのか、痙攣の部分症なのか不明の場合もありますので、震えがきつくなっているようなら、その状況をビデオ撮影し主治医に診てもらうのも良い考えです。痙攣なら、抗痙攣剤内服が必要になります。

投稿日時:2007-2-26 11:58
投稿者:ゲスト

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

古賀先生お返事ありがとうございます。
その中で何点か質問がございます。どうぞ宜しくお願い致します。
1、ピルビン酸ナトリウム、重曹、ウラリットに副作用があればどのようなものか教えて下さい。
2、娘は今年一月に検査入院した際、髄液、血液を検査し下記のような結果になりました。
髄液      乳酸28.5 ピルビン酸1.40  L/P比20
入院初日の血液 乳酸14.6 ピルビン酸0.76 pH7.401 L/P比19・2
運動負荷前血液 乳酸18.8 ピルビン酸1.10 pH7.427 L/P比17
運動負荷後血液 乳酸22.0 ピルビン酸1.09 pH7.422 L/P比20
このような数値の場合、ピルビン酸ナトリウムを使用した方が良いと思われますか?ご意見をお聞かせ下さい。
3.お返事の中で、ピルビン酸ナトリウムを使用した患者様は非常に良い印象だとの事でしたが、具体的に、どのような症状が緩和されたのか等教えて下さい。

お手数おかけ致しますがお返事どうぞよろしくお願い致します。

手指振戦につきましてもアドバイスありがとうございました。気になる時にビデオに撮って次回受診時主治医に診て頂き、どのようなものなのか、判断を仰ごうかと思います。

投稿日時:2007-2-27 19:06
投稿者:yasukoga

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
1、ピルビン酸ナトリウム、重曹、ウラリットの副作用。
ピルビン酸ナトリウムは、苦く塩辛い味がします。いままで0.5-1.0g/kg/日程度の量では、下痢、腹痛、胃部不快感などの症状はありません。もちろん、肝腎機能などの異常もありません。重曹は、やはり飲むときに苦くまた、胃に入ると胃酸と反応してゲップが出ることが多いようです。むねやけも訴えられる方もいらっしゃいます。ウラリットは、錠剤も顆粒もありますが、錠剤は飲みやすく服薬時に自覚的な副作用はありませんが、顆粒はやはり、苦く飲みにくいようです。もともとクエン酸ナトリウムとクエン酸カリウムの合剤であり、大きな副作用はありません。しいて言うなら、長期連用で尿がアルカリになり過ぎると、リン酸カルシウムなどの腎結石が起こりますが、ミトコンドリア脳筋症の方では、そこまでアルカリ化できることはありません。ただ、腎尿細管性アシドーシスを合併した場合は、判断が難しくなりますので、主治医の先生と相談してください。
2、乳酸ピルビン酸値からは、お嬢様はあまり重症では無いと思います。実際、歩行されているようですし、多くのLeigh脳症の方がお座りが最高到達度である事を考慮すると、軽症に入ると思います。私は、乳酸を積極的に下げる目的で副作用のリスクのある治療は必要ないと思います。私がピルビン酸ナトリウムを処方している方は、乳酸50-100、 ピルビン酸1-2、L/P比25以上の重症な方のみです。
3.ピルビン酸ナトリウムを使用した患者様の改善点。
臨床的には、笑顔が増えた、喜怒哀楽がはっきりした、食事がスムーズに出来る、排便が定期的になる、感染症に簡単にかからなくなった、検査でも、乳酸、ピルビン酸が低下した、点滴に来院する回数が減った、発育発達が起こってきたなどです。現在、ミトコンドリア重症度スコアーで改善度を点数化しております。

投稿日時:2007-2-25 2:09
投稿者:ゲスト

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

古賀先生 殿
お忙しい中大変詳しいお返事ありがとうございました。
とてもわかりやすく参考になりました。
再度質問がありましてまたご意見聞かせて頂きたいのですが、

1・次の候補薬の重曹、ウラリット、ビタミンCの中で、先生が今まで処方されてきた中でどれが一番好印象でしたか?ご意見お聞かせ下さい。

2・これは素人考えで自分が調べた中で良いかもしれないと思ったことなので未熟な考えかもしれないのですが、チオクト酸(αリポ゚酸)が、激しい肉体疲労や酵素の異常が原因で脳の特定部位に壊死がある病気、内耳性の難聴等に効果があると本で知ったのですが、実際ミトコンドリア病リー脳症等でも使用されているのでしょうか?
使用されている場合、症状にどのような効果が出ていますか?
副作用はありますか?
古賀先生は娘の様な症状に対するこの医薬品の投与についてどう思われますか?

投稿日時:2007-3-1 0:17
投稿者:yasukoga

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
1・次の候補薬の重曹、ウラリット、ビタミンCの中での印象。
代謝性アシドーシス(体が常に酸性に傾きやすい体質)がひどい人は、アシドーシスを抑えるようにウラリットから始めます。しかし、それだけでは、代謝性アシドーシスの発作が起こり、元気がなくなりぐったりされ病院に受診する回数がなかなか減らない方には、重曹を併用します。投与量に関しては、症状と検査で調節していきます。
ミトコンドリア病の方は、体内に活性酸素物が健康な方よりたくさん蓄積しています。この蓄積が進むと、DNAを損傷したり、細胞の老化を早めたり、細胞が死んでいくことを促進したり、癌化の元になったり、脳梗塞を起こしたりと、病状を悪化させる原因になります。この活性酸素物質を解毒するのが、ビタミンC、ビタミンEやコエンザイムQ10です。私はこれらの薬物は、診断がついたすべての患者様に処方しております。実際、活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を患者様で測定すると、ビタミンC、ビタミンEやコエンザイムQ10を服薬している場合が服薬無しの場合より同じ患者様でもこれらの蓄積が有意に抑えられていました。
2.チオクト酸(αリポ゚酸)やオメガ−3の脂肪酸の効能
実際、アメリカの患者様は、これら物質を服薬されていますが、ミトコンドリア病に効くという明確なエビデンスはありません。米国にいる私の患者は、panacea(万能薬)程度の健康食品的いち付けで、飲んでいます。αリポ酸は、種々の酵素の補酵素や抗酸化作用、オメガ−3の脂肪酸は、脳の発達に良いといわれるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)の原料になる脂肪酸です。民間療法に近い状態と私は考えており、患者様からのたっての希望が無い限り勧めません。ただし、正常な食事がとれない場合は、必須脂肪酸になります。
私は医師として、民間療法や抗老化・抗酸化療法などと称して高額商品を売りつける様なサプリメントと、厳しい評価基準をパスした医薬品とはきちんと区別すべきと思います。ただ、チオクト酸(αリポ゚酸)はドイツでは医薬品の認可を受けています。

投稿日時:2007-3-2 14:27
投稿者:ゲスト

Re: 四歳児、リー脳症の娘の症状について

お忙しいところ、幾多の質問に親切に答えて下さり、本当にありがとうございました。

娘の気掛かりな症状や、薬品についても大変参考になりました。
定期診察は3ヶ月に1度で、今月受診で、主治医の先生にも質問が沢山溜まっており不安な状態であります。
古賀先生から頂いた色々なご意見を参考に、主治医の先生とも症状、薬品関係についてよく話し合って娘の状態を更に良くしていきたいです。

今後も娘の事で気掛かりな事や、娘に対する薬品の投与等色々とご相談させて頂くかと思いますが、今後もどうぞ宜しくお願い致します。ご返答どうもありがとうございました。