久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
昨日まで、香港の先天代謝異常学会、分子遺伝学会の招待で、香港に行ってまいりました。South China Morning Postの健康欄に2月5日にミトコンドリア病の記事が載り、Queen　Elizabes Hospitalでのその後の講演会でしたので、150名程度の本当に多くの医師がお見えになりました。また、翌日の香港遺伝研究所での講演でも、多くの医師と交流でき、治療に関しても意見交換ができました。
ミトコンドリア病に関する治療で、効能効果が認められた薬は、世界的に見て一剤もありません。コエンザイムQ10の治療適応は、鬱血性心不全であり、Leigh脳症も含めてミトコンドリア病に対する治療適応はありません。コエンザイムQ10の期待できる効能は、電子伝達の授受を助ける、活性酸素の蓄積防止に働くなどです。ヨーロッパにおける鬱血性心不全の大規模治験研究では、成人で300ｍｇ以上大量に飲んでも、300ｍｇ飲んだ人と有意な効果の差は出ていません。ただ、大量に飲めば良いというものでもなく、成人でも300ｍｇ以上飲んでもその効果は同じということです。
藁をもつかむ想いでいらっしゃるご家族の心理状態の中で、ミトコンドリア病に効くという誘惑的誤った情報が世間にはあまりにも多くあふれており、われわれ治療者側も困っております。
基礎研究者の多くの発表の中に、「効果がある」、「有効である」、という文言があふれておりますが、そんなに効くなら、病気で苦しむ人はすでにいなくなっているということになります。現実は、ミトコンドリア病を適応症とする薬は、世界で１剤もありません。
現実には、コエンザイムQ１０は、健康補助食品として市中に出回っており、大量に服薬したければ、結果的には、自己責任で服薬することになります。
日本ミトコンドリア学会の薬事委員長として、この点、厳しく見ていかなければと常日頃思っております。