日本ミトコンドリア学会 本文へジャンプ
  
ドクター相談室
ドクター相談室 > 過去のドクター相談室3 > はじめまして

投稿日時:2006-12-24 15:21
投稿者:ゲスト

はじめまして

先月四歳の娘がリー脳症と診断されました。私もこの病気についてまだまだ初心者で只今勉強中です。心臓のエコーは年末に行う予定です。中脳に病変があり、現在、眼振弱視、筋肉の震え等があります。現在は月に一回小児神経科と眼科を受診しており、今はビタミンB1しか処方されていません。12月受診した際、ノイキノンの投与を希望しましたが、採血してみて副作用が出ていないか等診てからでないとの事でした。リー脳症の一部でジクロロ酢酸も良いと聞きました。親としては薬に副作用が特になければ色々試して娘を良くして行きたい一心です。リー脳症に有効とされている薬を色々教えて頂ければ幸いです。そして薬の希望など主治医に強く投げかけていきたいのですが、どのように申し上げれば一番理解して頂けるでしょうか。また良いとされている薬の中で副作用が強いものがあればどのような副作用なのかも教えていただけますでしょうか?よろしくお願い致します。

投稿日時:2006-12-27 19:58
投稿者:knakano

Re: はじめまして

東京女子医大小児科の中野です。

お嬢様がLeigh脳症の診断があり治療薬はどうしたらよいのかというご相談ですね。以前の投稿でもお答えしましたが、Leigh脳症では症状が必ず改善するという治療薬は、残念ながらまだ開発されていません。ミトコンドリア脳筋症のMELASではL-アルギニンが有望視されていますが有効性が同等以上の治療薬はLeigh脳症にはありません。薬の効果は主治医の先生と一緒によく症状の変化をみて薬が合うかどうか判定していかなくてはいけません。治療薬を選択する上でLeigh脳症のどういうタイプの障害かさらにわかっておいたほうがよりよいです。(ミトコンドリアDNAに変異があるのか、ピルビン酸脱水素酵素複合体の障害なのかなど)ピルビン酸脱水素酵素複合体の障害の時にはMCTミルク(オイル)が効果がある場合があります。ジクロロ酢酸ナトリウムはLeigh脳症に効果があったという報告もありますが、効かなかった、肝障害の副作用が出たという報告もあります。自分の経験ではLeigh脳症にジクロロ酢酸ナトリウムを使って乳酸が高値になり中止した例があります。ジクロロ酢酸ナトリウム投与は末梢神経障害、動物実験での発がん性の問題もあり、私はLeigh脳症では慎重になったほうがいいと考えています。

投稿日時:2006-12-27 23:35
投稿者:ゲスト

本当にお返事ありがとうございました。

大変参考になりました。今現在大学病院の方へ娘の血液を送っているのですが(結果には半年程かかるとの事です)リー脳症のどういうタイプの障害かというのはその結果で分かるのでしょうか?それとも診断がついた時点で分かっている事なのでしょうか?あと薬の効果は本人の症状と他に血液検査等で診て行くのでしょうか?それからお返事頂いたMCTミルク(オイル)とはどのようなお薬、作用なのですか?色々なご質問大変失礼致します。申し訳ございません。今わからないことを少しでも知りたく思っており、中野先生に答えて頂けると大変心強いです。どうぞよろしくお願い致します。

投稿日時:2006-12-29 16:43
投稿者:knakano

Re: 本当にお返事ありがとうございました。

東京女子医大小児科の中野です。

大学病院に血液検査を送っておられるとのことですが、恐らくDNAの検査に出されているのだと思います。Leigh脳症の場合、DNA検査を行っても原因がわからない場合もかなりありますが、ミトコンドリアDNAの変異がわかればLeigh脳症のどういうタイプかの手がかりになります。また、ピルビン酸脱水素酵素複合体の異常は、血液で乳酸、ピルビン酸の検査で、乳酸、ピルビン酸が両方上昇して異常値を示しますが、乳酸÷ピルビン酸の値(乳酸/ピルビン酸比:L/P比ともいいます)は正常範囲内にあります。ミトコンドリアの電子伝達系酵素の障害の場合は乳酸が上昇し、L/P比も上昇します。繰り返しの採血でL/P比が正常であればピルビン酸脱水素酵素複合体の異常を疑います。確定診断にはピルビン酸脱水素酵素複合体の酵素活性またはDNA変異の検討が必要です。
Leigh脳症に対する薬の効果の評価は、症状の変化、血液や髄液の乳酸、ピルビン酸の変化、頭部MRIをみて評価してゆくことになります。
MCTミルク(オイル)についてですがこれは食品・ミルクの特殊なものと考えてください。人のエネルギーは主にブドウ糖が分解される経路と脂肪が分解され経路があり、両方の経路からミトコンドリアのなかでエネルギーが作られます。ピルビン酸脱水素酵素複合体はブドウ糖が分解される経路にあるので、この酵素が障害されると糖分がうまくエネルギーに変換されなくなります。MCTは中鎖脂肪酸で脂肪の中でエネルギーに変換されやすい性質があるので脂肪からのエネルギーがとりやすくなります。しかし、このMCTはLeigh脳症の全てに効果があるのではなくて、今のところピルビン酸脱水素酵素複合体異常がある患者さんを対象にしたほうがいいと考えています。

投稿日時:2006-12-31 1:39
投稿者:ゲスト

早速のお返事ありがとうございました。

とてもわかりやすく書いて頂き本当にありがとうございます。とても勉強になります。その中で先生が書いてらっしゃったL/P比の正常範囲内というのは具体的にどのような数値なのですが?あとリー脳症の中にCOX欠損症というのがあるときいたのですが、それはどんな特徴、症状なのでしょうか?また教えて頂けますでしょうか?どうぞ宜しくお願い致します。
今年もあとわずかながら、大変お世話になりありがとうございました。来年も色々教えて下さい。来年もどうぞ宜しくお願い致します。