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投稿日時:2006-9-24 13:40
投稿者:ゲスト

3243変異と心臓の症状について

男性 今年で39歳。173cm63kg。現在は週三日の透析です。
中学生の頃から難聴が徐々に始まり、35歳で補聴器装用。その時点では両耳とも65デシベル程度。右肩下がりの高域が聞こえていない感音性難聴です。
IDDMと診断されたのが19歳の時。この時、抗体反応が陽性でT型と診断されているが、15年後の抗体反応は陰性。同時に遺伝子検査でミトコンドリア遺伝子3243変異が見つかり、ミトコンドリア病と診断がありました。DM発覚時はHbA1cが13パーセントありましたが、翌月から6%に下がり、卒論や就職時などのイベントで8%ほどになる事はありましたが、以後20年間は平均で6%程です。ここ二年程は5%代です。
35歳の時に原因不明の心肥大(CTR70%足らず)で、腎機能の低下、浮腫みもある事から「…血管から漏れた汚れた水?」との判断(肺には水は漏れていない)で早期の透析導入。この時は、心電図、ホルター心電図などでは異常は見られず。透析をしても、心肥大は改善せず、ドライウェイトを極度に下げて(この時のhanpの値は覚えていません)連日透析を行ったところ、心胸比が50%代になり、連日透析を停止する。が、連日透析で排尿機能を失い、現在も透析中です。尚、同じ頃に「胃腸の運動障害と逆流性食道炎」が認められています。
心胸比は、その後透析は続けていても、安定する事は無く、大きくなったり元に戻ったりを繰り返し、それが1年くらい続きました。心肥大が収まり、安定して来て、2004年の6月に、狭心症のような症状を訴え、入院中だったので、その場でニトロを服用して収まりました。その後、シンチグラフィなどの検査も受けましたが、狭心症の診断は下りておりませんでした。(東京女子医大の心研にて)今はニトロを常備しておりますが、ここ数ヶ月の症状としては、朝、手足が異常に冷たいと感じた時にニトロの服用が必要な痛みがある時があります。
前置きが長くなりましたが、この「狭心症と診断されない、ニトロペン服用で治まる狭心症のような心臓の痛み」は、ミトコンドリア病と関係あるのでしょうか?もしその疑いがあるのなら、どこでどのような検査をすればいいのでしょうか?
尚、先日、遺伝子異常の難聴外来という診察で「変異率を確認してみましょう」と言う事で採血をし、結果を11月半ばに聞ける事になっております。兄弟は兄と姉が降りますが、姉が同じくmtDNA3243変異が認められる、感音性難聴を伴うIDDMです。兄は何も症状は出ておりませんので遺伝子検査もしておりません。3人兄弟のうち二人に遺伝子異常が見られた為、医師側から「母親の血液サンプルをお願いしたい」との事で遺伝子検査をしたところ、ミトコンドリア遺伝子異常3243変異は見られなかったそうです。
ここで、先生方から何らかのご意見を頂ければと思い、長々と書きました。20代の10年間は北米在住でした。よろしくお願い致します。

投稿日時:2006-9-25 7:49
投稿者:yasukoga

Re: 3243変異と心臓の症状について 

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
A3243Gタイプの変異をお持ちとの事ですね。感音性難聴、IDDM、腎不全で透析中、心機能低下、胃腸の運動障害と逆流性食道炎、狭心性様の症状でニトロで効果有りとの事ですね。低身長、片頭痛、脳卒中様の発作は今まで無いとの事ですね。
A3243Gタイプの変異をお持ちの方で、肥大型心筋症の症状がよく起こります。この病気は、血管の拡張力が非常に低下しやすく、動脈の拡張力を検査すると、正常の10%以下に低下しております。脳内の血流も部分的に低下している事が、最近の研究で明らかになってきており、また、心筋内の血管の不均衡分布も見いだされております。恐らく、外気温の低下に伴うしもやけや末梢循環不全もこの症状の現れと私は思っております。ニトロは、動脈を拡張させる薬であり、狭心性、心筋梗塞に使用しますので、病態治療に合致していると思います。心筋の壁の厚さが異常に厚くなると、血流の充分行き渡らないところが出てきますので、その時に狭心症様の症状が出てくるのでしょう。脳卒中様発作を示すMELASでは、血管拡張作用を期待してL−アルギニン療法を行う予定です。外来でA3243Gで肥大型心筋症を示す方に、L−アルギニンを使用し、心筋壁がかなり改善し、心収縮力も正常化した方をフォローしております。ニトロより効果が永く、L−アルギニンを使い出して、QOLも明らかに改善しました。しもやけにも良く効きます。
検査ですが、症状が起きているときの24時間心電図(ホールターモニター心電図)、負荷心電図、薬物負荷による心筋シンチが必要ですが、危険を伴いますので、心臓専門医に相談された上で、検査を受けるか判断してください。
最近の研究では、ミトコンドリア遺伝子異常の判明した患者様で詳細な家系の遺伝子検索を行っても、約半数に母系遺伝の異常を認めず、ミトコンドリア遺伝子異常に突然変異が多いことも示唆されています。

投稿日時:2006-9-25 15:57
投稿者:ゲスト

Re: 3243変異と心臓の症状について

古賀先生、ありがとうございます。
かかりつけの大学病院(東京女子医大のDMセンターです)で、遺伝子検査はしたものの、自覚症状を訴えるも、首をひねられる事が多く、まだまだ研究中の病気だから仕方の無い事と、あきらめる事が殆どです。院内にはミトコンドリア病の知識はともかく、そう認識して症例を診てきたと言う先生が少なく、「わからない」で終ってしまう事が多いので、ここでこうしてアドヴァイスを頂けるのは、本当にありがたいと思っております。ここで先生方や皆様のコメントを読ませて頂く事が、どれだけ精神的に助けられる事か、と嬉しく思っています。
血管の膨張収縮のお話は、非常にわかりやすいお話でした。本当にありがとうございました。
ニトロペンについては、「クセになるといけないから、出来るだけ我慢したほうがいいのかな?」と素人考えでしたが、「心臓には、できるだけ負担を与えたくないから、症状があれば、直ぐに服用するように」と言われ、口に入れてはいるものの、狭心症の診断が下らぬままニトロの処方をお願いし続ける事に、少し不安もありました。
ただ、古賀先生から頂いた「L-アルギニン」についてのアドヴァイスも、主治医にどのように話をすればいいのだろうと迷っております。患者が、他所で身に付けてきた知識で、治療方針や処方内容に口出しする事に、日本ではまだまだ少し気後れするものがあります。でもありがたい事に、主治医は、「ミトコンドリア病に関してはわからない」とは言うものの、時間を十分にとって、私の話を聞いて下さる先生で、必要であれば、紹介状もすぐに書いて下さる先生です。わからない事は、次回の外来までに必ず調べてくれる先生で、本当に助けて頂いております。それでも、どのように相談しようか迷ってしまいます。
余計な事を長々と書き連ね、申し訳ございませんでした。ありがとうございました。新たに具体的な質問が出来た際は、何卒よろしくお願い対します。

投稿日時:2006-10-2 6:43
投稿者:ゲスト

Re: 3243変異と心臓の症状について 

改めてお尋ねしたいのですが、こちらで、他の先生方の投稿などを拝見していても、「mtDNA遺伝子異常と心肥大」の話が出てまいります。自分の時は、大学病院の医師たちがみな「原因と対処法がわからない」と首をひねる状態でした。(その時には、まだ自分に3243変異がある事はわかっていませんでした)
そういった場合、どのように処置すべきなのでしょうか?緊急の場合でも、古賀先生がおっしゃるように、L-アルギニン投与での対処になるのでしょうか?
それと、こんな事を聞いていいのかと思うのですが、L-アルギニンの投与方法はなんでしょうか?処方薬では、味の素より「アルギU」というものが出ているようですが、これを服用するのでしょうか?それとも、点滴で直接静脈に入れる様な方法なのでしょうか?また、投与の量や回数はどれくらいなのでしょうか?

投稿日時:2006-10-2 9:58
投稿者:yasukoga

Re: 3243変異と心臓の症状について 

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
私は、小児から成人までのミトコンドリア脳筋症をみさせて頂いており、心臓病(主に肥大型心臓病)の方も多くいらっしゃいますのでその経験からお答えします。
@A3243Gに関連する心臓症状の治療
主に不整脈(WPW症候群やその他の不整脈)と肥大型心筋症に伴う種々の症状(高血圧、虚血性心疾患)の対象治療になります。
具体的には、カルシウム拮抗剤、βブロッカー、抗不整脈治療薬、利尿剤などの組み合わせになります。これらの治療は、ミトコンドリア病だからといっての特別な薬ではありません。循環器専門医が普通に使用する薬です。ミトコンドリア病で使用する薬にノイキノン(CQ10)があり、使用量は300mg/日分2もしくは分3で結構です。糖尿病内科のみに受診してあるのであれば、循環器専門医に受診された方が良いと思います。
AL−アルギニンの使用法および容量
L−アルギニンは、血管拡張を来す一酸化窒素(NO)の基になるアミノ酸です。基本的には、ニトロ、バイアグラなどと同じ様な作用を来すお薬です。日本では、高アンモニア血症の治療薬として認可されたオーファン薬の第一号あり、古くは本態性高血圧症の治療として使用されておりました。脳卒中様発作急性期は、注射で5ml/kg/回を、脳卒中様発作の予防を目的としては、0.05-0.5g/kg/日を1日分2もしくは分3で内服します。詳細は、未だ一般的な適応が得られておりませんので、現在限られた拠点病院でしか、処方されておりません。