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投稿日時:2006-7-3 11:13
投稿者:ゲスト

ジクロロ酢酸服用中止後の症状

11歳の長女はMELASです。昨年3月からジクロロ酢酸を服用していましたが、ウィルス感染や栄養摂取障害等で肢体不自由になり、経管栄養状態です。MRIでも脳梗塞様所見が点在しており、抹消神経障害も服用後に現れています。1ヶ月程前に酢酸の効果が見られないとの理由で服用を中止したのですが、2週間位経ってから右手首や顎、眼球、首に痙攣のような症状が頻繁に現れています。たまたま今の時期に現れた症状なのか、酢酸を中止したからなのか主治医も経過観察中です。日に日に意識レベルが低下しているようで心配です。酢酸服用中止した場合、どんな症状になるんでしょうか?酢酸服用を再開させるべきなんでしょうか?

投稿日時:2006-7-4 12:14
投稿者:ゲスト

Re: ジクロロ酢酸服用中止後の症状 

このコーナー担当の先生方みなさんが返事に困っておられ、返事が書けないのだと思います。ジクロロ酢酸に詳しい中野先生やメラスの治療に詳しい古賀先生に追加回答をお願いします。
 ジクロロ酢酸を使ってもあまり効果がないと主治医が判断されたのは、アシドーシスの改善があまりないこと、末梢神経障害が出てきて副作用が心配になってきたからではないでしょうか。メラスでは普通は末梢神経障害は出てきません。薬の副作用かもしれません。
 ただ、中止してから増悪されたので薬の効果があったのかもしれません。あるいは、たまたま悪くなる時期と重なったのかもしれません。たぶん、主治医の先生は様子を慎重に観察されていると思います。薬の副作用と効果、どちらをとるか、よく様子をみておられる主治医にお任せになるしかないと思います。
国立精神・神経センター 埜中征哉

投稿日時:2006-7-5 10:49
投稿者:ゲスト

Re: ジクロロ酢酸服用中止後の症状

埜中先生、お返事有難うございます。昨日、血液検査の結果やはり乳酸値が服用中より高くなっており、意識レベルの低下もある事からジクロロ酢酸を再開する事になりました。併せて、テグレトールも追加になりました。娘はアルギUも服用しています。抹消神経障害も酢酸の副作用とみるなら心配ですが、親としては子供が少しでも元気で笑顔を見せてくれることが何より嬉しいことです。主治医にお任せしようと思います。また、相談させていただく事があると思いますが、宜しくお願い致します。相談室が開設された事、本当に心強く思っています。

投稿日時:2006-7-6 8:00
投稿者:knakano

Re: ジクロロ酢酸服用中止後の症状

東京女子医大小児科の中野です。
ジクロロ酢酸を中止された後に身体のいろいろな部分で痙攣が起きるようになったとのことですね。私たちはこれまで経験したメラスの痙攣のタイプには、卒中様発作に伴っておきる部分痙攣を主体とした痙攣、メラスの途中過程ででてくるEPC(持続性部分てんかん:epilepsia partialis continua)と、卒中様症状後遺症としてのてんかん性の痙攣があると認識しています。お話で部分痙攣が頻繁に起きてきていることからするとEPCの可能性があるのではないかと思います。私たちが経験したEPCはメラスの発症初期には出てこなくてジクロロ酢酸を投与していたにもかかわらず途中の段階で出現しています。もし今の痙攣がEPCだとすると、ジクロロ酢酸中止の直接の影響というよりはメラスの病気の過程ででてきたととらえたほうがいいように思います。
ジクロロ酢酸中止で予想される症状ですが、卒中様発作がジクロロ酢酸である程度コントロールされている場合は、ジクロロ酢酸を減量・中止することで卒中様症状が増えてくる可能性があります。私たちの症例でもビタミンB1を投与しているにもかかわらずジクロロ酢酸を投与して末梢神経障害が出現したためジクロロ酢酸を減らしたところ、末梢神経障害は軽くなったのですが卒中様発作が再発した例を数例経験しています。アルギUなどで卒中様発作が十分コントロールされればジクロロ酢酸は容易に減量中止できると思います。しかし、そうでない場合はジクロロ酢酸をやめることはできず悪戦苦闘しながら使っているのが現実です。
ジクロロ酢酸の投与量の調整は微妙だと私は感じています。本来であればジクロロ酢酸の血中濃度を測りながら投与すべきなのですが、血中濃度をすぐに測ることができないので乳酸、ピルビン酸の値を目安にして投与量を調節することになります。多くのミトコンドリア脳筋症の場合、乳酸/ピルビン酸比(乳酸をピルビン酸で割った値)が上昇しているため、乳酸を正常値にまで下げるようにジクロロ酢酸の投与量を増やすと必然的にピルビン酸値は正常以下になります。しかし、ピルビン酸は細胞にエネルギーを供給する大元の物質なのでこれが減ってしまえば細胞へのエネルギー供給は途絶え症状が出てくる可能性があります。私はジクロロ酢酸を使い始めた当初は乳酸値が正常近くになるよう目指していましたが末梢神経障害などの副作用がでたため、今はピルビン酸が正常値を下回らない範囲で乳酸を下げるのがよいと考えています。
ミトコンドリア脳筋症は患者さんによって症状が多彩でひとりひとりに合った対応が必要です。そういう点で主治医の先生とご相談しながらひとりひとりに合う方法を探してゆくのが大切だと思います。

投稿日時:2006-7-9 17:29
投稿者:yasukoga

Re: ジクロロ酢酸服用中止後の症状

久留米大学医学部小児科の古賀靖敏です。
ご質問の件で、中野先生のご意見に私も全く同感です。
私の経験では、成人の方も含めて、ジクロロ酢酸を全例中止しておりますが、元々MELASは、痙攣が合併しますので、抗痙攣剤でのけいれんのコントロールも大切です。たまたま同じ時期に痙攣様の発作時期が重なったのかもしれません。抗痙攣剤の血中濃度測定は重要です。
また、L−アルギニンを服薬する場合、朝夕の2回飲んで頂いておりますが、服薬後の2時間の血漿中濃度が100μモル/Lを維持しなければ血管内皮機能の改善ができません。L−アルギニンを服薬する場合、血漿中濃度が大切なのです。濃度が十分上がっていなければ、L−アルギニンも服薬していないのと同じであり、これは、抗痙攣剤を使用する場合でも同じなのです。薬物を使用するための効果を十分発揮するためには、望ましい血中濃度が必要です。ただ飲んでいるだけでは駄目なのです。
また、先日の国際学会で、イタリア、アメリカのミトコンドリア病研究者と話す機会がありましたが、皆さんジクロロ酢酸はほとんど中止したそうです。しかし、日本では、効果ある症例もあるため、主治医と充分相談して治療していただくことが大切かと思います。