東京女子医大小児科の中野です。
ジクロロ酢酸を中止された後に身体のいろいろな部分で痙攣が起きるようになったとのことですね。私たちはこれまで経験したメラスの痙攣のタイプには、卒中様発作に伴っておきる部分痙攣を主体とした痙攣、メラスの途中過程ででてくるEPC(持続性部分てんかん:epilepsia partialis continua)と、卒中様症状後遺症としてのてんかん性の痙攣があると認識しています。お話で部分痙攣が頻繁に起きてきていることからするとEPCの可能性があるのではないかと思います。私たちが経験したEPCはメラスの発症初期には出てこなくてジクロロ酢酸を投与していたにもかかわらず途中の段階で出現しています。もし今の痙攣がEPCだとすると、ジクロロ酢酸中止の直接の影響というよりはメラスの病気の過程ででてきたととらえたほうがいいように思います。
ジクロロ酢酸中止で予想される症状ですが、卒中様発作がジクロロ酢酸である程度コントロールされている場合は、ジクロロ酢酸を減量・中止することで卒中様症状が増えてくる可能性があります。私たちの症例でもビタミンB1を投与しているにもかかわらずジクロロ酢酸を投与して末梢神経障害が出現したためジクロロ酢酸を減らしたところ、末梢神経障害は軽くなったのですが卒中様発作が再発した例を数例経験しています。アルギUなどで卒中様発作が十分コントロールされればジクロロ酢酸は容易に減量中止できると思います。しかし、そうでない場合はジクロロ酢酸をやめることはできず悪戦苦闘しながら使っているのが現実です。
ジクロロ酢酸の投与量の調整は微妙だと私は感じています。本来であればジクロロ酢酸の血中濃度を測りながら投与すべきなのですが、血中濃度をすぐに測ることができないので乳酸、ピルビン酸の値を目安にして投与量を調節することになります。多くのミトコンドリア脳筋症の場合、乳酸/ピルビン酸比(乳酸をピルビン酸で割った値)が上昇しているため、乳酸を正常値にまで下げるようにジクロロ酢酸の投与量を増やすと必然的にピルビン酸値は正常以下になります。しかし、ピルビン酸は細胞にエネルギーを供給する大元の物質なのでこれが減ってしまえば細胞へのエネルギー供給は途絶え症状が出てくる可能性があります。私はジクロロ酢酸を使い始めた当初は乳酸値が正常近くになるよう目指していましたが末梢神経障害などの副作用がでたため、今はピルビン酸が正常値を下回らない範囲で乳酸を下げるのがよいと考えています。
ミトコンドリア脳筋症は患者さんによって症状が多彩でひとりひとりに合った対応が必要です。そういう点で主治医の先生とご相談しながらひとりひとりに合う方法を探してゆくのが大切だと思います。