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投稿日時:2006-5-20 22:58
投稿者:ゲスト

リー脳症の症状について 

現在7歳の息子は、2年前リー脳症(13513変異)と診断されました。その当時は、MRI上、両側の被殻・淡蒼球にT2、FLAIR像で高信号、T1で低信号を示す病変が認められてました。左側上下肢に筋緊張が見られてました。最近右側にも同じ様な症状が見られるようになっていたところ、3月に2年ぶりに検査入院をして左側の病変が大きくなっている事が判りました。又新たに、中脳にも病変が見つかりました。心電図ではWPW症候群との診断。最近よく後に尻餅をついて転ぶようになりました。脊柱側わん症で装具を着用しているせいなのかとも思ったのですが、新たな病変のせいなのか心配です。主治医は「すぐ悪くなるわけではないから」と言っていますが、今後どういう症状に気を付けたらいいでしょうか?変わった動作などしても知的障害から来てる様に言われてしまいます。自分自身知識も無いもので、子供が出している信号を見落としているのではと思う事があります。何かアドバイスいただけますでしょうか。宜しくお願いします。
P.S ミトコンドリアの専門病院・専門医のリストなどはあるのでしょうか?もし有りましたら教えて頂きたいのですが。

投稿日時:2006-5-23 16:37
投稿者:ゲスト

Re: リー脳症の症状について 

東京女子医大小児科中野です。
ご子息は13515変異が認められたLeigh脳症で、MRI画像上、大脳基底核の被殻、淡蒼球、中脳に病変が認められていて、最近転びやすくなっていることが心配ということですね。
転びやすいことについての原因になりそうな脳内の部位ですがひとつには大脳基底核があります。大脳基底核は体の筋肉の緊張をコントロールするところでこの部位に障害が起きると筋緊張の高い状態が続いたり(筋強直rigidity)、不随運動のヒョレア・アテトーゼが出たりします。ご子息の場合筋強直が強くなってきていてバランスが悪くなり倒れやすくなっている可能性があります。また、脊髄、延髄の後方に後索という知覚神経が束になっているところがありますが、この部位が障害を受けるとふらつきが出てくる場合があります。私の診ているLeigh脳症の患者さんで後索症状によるふらつきがある方もいます。
ご子息の最近のMRI検査で中脳にも病変が見つかったとのことですが、画像上の病変があれば臨床症状に必ず表れるというものではありません。しかし、症状に表れないか注意してみる必要があります。中脳の中には、目の動きと聴覚を司る中枢があります。ですから目の動きや音の聞こえ方には注意が必要と思います。また、網様体という意識レベルを司るところがあります。眠りがちになるといった場合は注意が必要です。
Leigh脳症は一般的には幅広い疾患で乳幼児期に急激に症状が進行するものから学童・思春期にいたるまで比較的症状が安定しているものまであります。ミトコンドリアDNA13515の変異はこれまでに報告されている例を見ると比較的症状が安定しているものが多いようです。日本人の例では国立精神神経センターの後藤先生が論文にまとめておられます。13515の変異はご子息でもWPWがありますが心臓の合併症がよくみられるようです。また、これまでの報告を見ますとミトコンドリア脳筋症の1型であるMELASの原因にもなっています。私の経験した例でもLeigh脳症の途中でMELAS様の梗塞病変を示した例があります。Leigh脳症は比較的症状が安定していても感染などをきっかけに急性増悪する場合があります。13515の変異でも急性増悪は起きる場合がありますので感染が持続して発熱が続くような場合は特に注意が必要です。

ミトコンドリアの専門病院・専門医についてですが、昨年ミトコンドリア病患者・家族の会の勉強会でご家族から旅行先でミトコンドリア病の患者さんの具合が急に悪化したがミトコンドリア病を専門に診てもらえるところがわからず、大変苦労したというお話がありました。この時、ミトコンドリア学会理事長の埜中先生は、ミトコンドリアの専門病院・協力病院のリスト作成を検討するとのお話でした。 埜中先生、後藤先生、古賀先生はじめ理事の方々、臨床系の小児科、神経内科の先生方と相談してできるだけ早くリストを作り、ミトコンドリア病患者・家族の会の方々にお知らせできるようにしたいと思います。


投稿日時:2006-5-23 16:59
投稿者:ゲスト

Re: リー脳症の症状について 

東京女子医大小児科の中野です。
お返事の中でミトコンドリアDNA13513変異を13515変異とタイプのうち間違いをしました。お詫びして訂正いたします。

投稿日時:2006-5-23 22:14
投稿者:ゲスト

Re: リー脳症の症状について 

中野先生お忙しいところ有難うございました。
大変詳しい内容で、今後息子を診て行く上でとても参考になります。病院で主治医の話を聞いても内容をよく理解出来ず(何を訊いたらいいのかも解らず)いつも消化不良の状態でした。幸い息子は現在安定している方なのかも知れませんが、油断は出来ないのですね。でも、この「相談室」で専門の先生のお話を聞く事が出来るようになって、とても心強いです。これからも宜しくお願いいたします。
リストの件ですが、昨年の勉強会でお話が出てましたので、もしかしたら出来てるのかと思い問い合わせてしまいました。すいません。
来月も勉強会に参加予定です。宜しくお願いします。